コーヒーブレイク10
12月は、公私ともにイベントが多いせいか、町ゆく人の様子もせわしい。
佐和子の家庭では、なかなか家族の団らんという場面が作れないでいる。
以前は絵里香を中心にして、誕生会、卒園、入学、卒業と何かの区切りの時に家族で祝いあう場面があった。
しかし、絵里香が成長して、絵里香自身が部活や塾通いなどの時間に追われ、夫も会社での位置が以前より動かしがたいものになってくると、それぞれが自分のやり方やリズムで生活を作り、お互いがかみ合わなくなって来ている。
家族ってなんだろうと佐和子は思う。
最近の三人は、寝食でさえ共にする時間がなく、ただ単に同じ屋根の下で暮らしているという状態だ。
「まるで高校生の合宿だわ」
佐和子は、自分の家庭の状態を自嘲気味に言う。
夫は相変わらず忙しそうではあったが、気温が低くなってからはゴルフ接待は減ったらしく、土日は家にいる。
しかし、佐和子は絵里香のことをどう切り出そうか考えあぐねている。
会社の仕事で疲れている夫に、あまり深刻めいて話をしたくないと思った。
夫婦の会話が当たり障りのない内容になっている。これではいけない・・・佐和子は、夫の表情を伺いながら機会をつかもうとしているのだが、言い出せないでいた。
そんなある日、弘子から電話があった。
「あら、弘子、お久しぶり。元気だった?」
「・・・まあ、元気と言うか・・・」
「なにかあったの?」
「私、家を出ちゃった・・・」
「え?」
「夜中に夫の携帯にメールが入ったり、メッセージが入ったり・・・耐えられない」
「で?」
「さっき、大阪に3日間出張だって、新幹線に乗って行ったから。チャンスだと思って、出てきた」
「出てきたって・・・」
「佐和子の所に転がり込まないから大丈夫よ。有り金全部持ってきたから、どこか借りるわ」
「いや、でも、それは・・・話し合った方が良いわよ」
「これから、ね。今は嫌。ずうっと耐えて来たんだから」
「弘子・・・」
「じゃあ、切るわね。また連絡する」
弘子は一方的に話すと、電話を切ってしまった。
しばらく受話器を握ったまま立ちつくす佐和子。
呆然としていたが、気を取り直して台所で水を飲んでいたら、絵里香が帰って来た。
絵里香は自分の部屋に行かずに、台所から見えるリビングの長いすに自分のバックを置いて、佐和子の方を見た。
絵里香の表情が固い。
「お母さん、話があるんだけど」
(つづく)