コーヒーブレイク その9
何度か絵里香と小田が会っていたという事実に、佐和子は動揺した。
「えと・・・それは絵里香と小田くんがつきあっていたということ?」
「あ、誤解を生むような言い方でした?
いえ、そういうのじゃなくて、ただ会って話をしたというか。
絵里香さんが僕に聞きたいことがたくさんあったのじゃないかと思います」
「ふうん・・・私早とちりだから、もしかして小田くんがうちの婿に来てくれたら良いなあなんて、飛躍しちゃった。」
小田があっけにとられた表情をして
「佐和子さん・・・早とちりって。・・・そうですねえ、ははは」
「で、小田くんが気になるって、絵里香の様子・・・」
「うーん・・・佐和子さんの話が出て」
「私の?」
「でも、それは絵里香さんの見方であって・・・そういう価値観があるってことですから、
怒らないで聞いてくださいね」
「怒るような内容なんだ・・・大丈夫よ。腹が立ったら外に出て街路樹を蹴って来るわ」
「・・・」
「冗談よ。続けて」
「佐和子さんの生き方が嫌だと思って見てたと。
夫のため、子どものために一日中掃除や洗濯や食事作りをして、いったい何になるの?って思っていたと。
だから、自分は仕事を持って自分の自己実現をしたいと」
「よくわかるわ。今の若い女性の多くはそう思うでしょう」
「でも、就職活動をして、なかなか難しくて・・・結局、親がかりで内定が取れて。
入社してからが勝負だと、僕は言いましたが、結構今の会社の人事管理システムは狡猾に出来ているんですね」
「私の時代は、女子社員は結婚までの腰掛けと見られていたわ」
「絵里香さんの話だと、今も似たような状況じゃないかって言うんですよ。
一般職と特別職という枠を設けて、女性に選ばせる。
腰掛けで補助的な仕事に甘んじるか、男性と同等に仕事を担うか。男性にはそんな選択はさせないのにって」
「結婚しても働き続ける女性は増えたわ」
「そうですね。以前よりもいくらかマシになったのでしょうか。
僕の母も苦労しました。中途半端な職場の育児休暇、保育所の入所条件の厳しさ、
そしてその費用が高くて、何のために働いているのかって、母は悩んでいました。
子育ても大切な仕事と思っている人ですから、
それを犠牲にしてまでこの仕事を続ける意味があるのかって、
自問自答してました」
「私も・・・悩んだわ。で、子育ての方を選んだのよ」
「男は悩まないですよね。そう言う問題の建て方をしないから」
「そうね。家族のために働くのが当たり前と思っているから、僕結婚退職します!なんていう方は、あまり聞かないわね。
でも、聞けば色々なカップルがいるわ。
女性が高校教師で、男性が絵本作家とか・・・実質女性の方に経済的な負担がかかっているケース」
「現実は多様です。外側の価値観で自分を規定するなって思います」
「絵里香にそう言ったの?」
「僕が、母から言われて来たことなんですけど、僕の意見でもあるし」
「絵里香の夢は何なのかしら」
「たぶん、そのところがわからないでいるから悩んでいる」
「だから小田くんに聞いたのかしら・・・」
「それと・・・」
「まだある?」
「子育てを選んだ佐和子さんの気持ちがわかった・・・って。
でもそれと自分の夢、自己実現はどう重なるのかって。僕は答えられないですけどね」
「その部分が気になるわ。わかったって?」
「・・・僕の想像なんですが、絵里香さん、誰か好きな男性がいらっしゃるのではないでしょうか」
(つづく)