2008-09-01から1ヶ月間の記事一覧

コーヒーブレイクその7

久し振りに会った小田は、少し大人びた表情をしていた。 「佐和子さん、よろしくお願いしますね。」 「何をどうしたら良いかわからないわ」 小田はあの穏やかな笑みを浮かべて 「簡単なマニュアルを作ってありますから。あとは臨機応変に。接客の仕方や言葉…

コーヒーブレイクその6

十一月も末となると何かと心せわしくなる。 娘の絵里香は、M商事の内定をもらい安心したのか、夕方からのアルバイトを始めた。 夫の帰りも遅く、佐和子は一人で夕食を取る事が増えた。 自分のためだけの食事作りは手抜きになる。 つくづく、佐和子は自分以…

コーヒーブレイク その5

「お母さん、何かあった?」 「え?何も。どうして?」 絵里香はポトフの中に入っていたウィンナーソーセージを、前歯でぷちっとかみ切った。 目がくりっとして前歯が少し大きい絵里香はビーバーみたいで可愛い。 「お母さん、普段あまり自分の気持ちとか言…

コーヒーブレイク その4

「私、仕事をすることにしたわ」 弘子は談話室で、缶コーヒーを横にタバコの灰を灰皿に落としながら言った。 晴れ晴れとした表情をしている。 先日同じ場所で泣いていた弘子と同一人物とは思えない。 「喫茶店の店舗デザインをしている会社なんだけど、 そこ…

「コーヒーブレイク」その3

佐和子のパート勤務は、ウィークディの日中に限られている。 お昼の時間帯が忙しい。 街中のビルの2階にレストランと事務所があり、地下は食材やワインの倉庫になっている。 忙しくない時間帯には、その倉庫からナプキンや食材を運ぶのが仕事のひとつになっ…

コーヒーブレイク2

佐和子は、気の強い弘子の涙を初めて見たと思った。 弘子は小さく鼻をすすってから、 自分の気持ちを立てなおすように、再びタバコに火をつけた。 「ごめんなさい。こんなことあなたに話しても困るだけよね。私どうかしている」「ううん。誰かに話さないと胸…

「コーヒーブレイク」

「佐和子さーん」背後から、和らげな青年の声がする。 佐和子が、抱えていたフランスパンの包みを持ち直しながら振り抜くと、 年齢は24,5歳ほどか、中背のやせ気味の青年が駆け寄って来た。 親しげなまなざしは屈託がなく、素直な青年の性格が現れている…

この美しい星の上で

*人が魚だったころ、鳥だったころ 心の中で、そんな記憶が一瞬の星のきらめきのように光り 形にならない切ない思いがひとつの物語を作り上げたり。 またここに書き綴られることも、星の光とおなじように やがて消えていくのかもしれません。 それでも、この…